一人で抱え込むなんて無理

ネットで悲しい記事を見つけた。 

19歳の母親が、1歳と0歳2か月の育児と家事を一手に引き受け、誰にも頼ることが出来ずに追い詰められて、衝動的に0歳2か月の子を強く揺さぶって死なせてしまったという事件。

  https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180301-00010009-saitama-l11

母親は午前4時ごろに起きて夫の弁当を2食分作り、午後7時ごろに夫が帰宅する前に夕食を準備。掃除、洗濯に加え、乳児2人の世話を一人でこなしていた。両親とは疎遠な関係で、夫の父は子どもを預かってくれることがあったものの、体調が悪いため頼りきれなかったとした。夫とはけんかが多く、一方的に強く言われていたという。

 

とにかく悲しい。今、2歳と0歳の子を持つ母親として、この人のおかれた立場を想像する。かなり厳しい状況に追い込まれていたんじゃないかと思う。 

朝の4時からお弁当作りに起きて、とあるが、そうなると2か月の赤ちゃんの授乳などで自分はほとんど眠れなかっただろう。日中だって1歳と0歳がいたら仮眠すらとることが出来なかったのではないか。睡眠不足は拷問にもなるほど、人の身体も精神も追い詰めていく。 

 

産後2か月ではまだまだ母体も本調子ではない。授乳は体力を消耗する。母乳は血液から出来ているからだ。わたしも現在、産後3か月だが、常に疲労がつきまとう感じがある。髪の毛や爪まで栄養が回らず、パサついたり切れたり、爪がかけたりも日常茶飯事。それほど栄養を赤ちゃんにとられているのだろう。たとえ19歳と言えど、それは変わらないと思う。貧血に近い状態で、睡眠やちょっとした休憩も取れないままに家事と年子育児に追われる、身体も相当キツかったはずだ。 

彼女には頼れる人もいなかった。安心して里帰り出来る実家も無ければ、誰かに手伝いに来てもらえるわけでもない。夫もずっと仕事で、産後すぐから「ワンオペ」状態だった。

 結果的に子どもを殺めてしまったことは決して許されることでは無いけれど、彼女を「ひどい母親」だと責める気にはどうしてもならない。責められる人はいないと思う。誰も、彼女と彼女の次男を助けてあげられなかった。その事こそ考えるべきポイントだと思う。 

 

夫は、子どもの父親は何をしていたのか。

おそらく仕事が忙しかったのだろう。せめて次男が落ち着くまで、気軽に育休取得や時短勤務が選択できる社会であれば結果は違ったのでは、と思う。 

職場の周囲の人たちの理解、休職中の給与保障(専業主婦や、パートタイムから妊娠出産を機に退職したシングルインカムの家庭などでは、夫まで育休を取得することで家計が逼迫するという不安は大きく、取得に踏み切るのは容易くないだろう)…男性が育休や時短勤務を決断するにはまだまだハードルの高い社会なのが残念だ。 

次男が亡くなり、妻が有罪判決を受けた今、夫は何を思うのだろう。

家族のサポートのない母親が気軽に育児サポートを受けられる仕組みは利用されていたのだろうか。

 自治体によっては「ファミリーサポート」と言って、サポートすることをかって出てくれる協力会員とサポートを願い出る依頼会員とのマッチングがなされる取組を導入しているところもある。(この事件があった埼玉県新座市にもどうやらあるようだ) 

 

わたしも以前住んでいた地域の自治体にファミリーサポート制度があり、実家が遠方なこともあり登録をしたいと考えていたことがある。でも、しなかった。

なぜかというと、手続きが煩雑だったからだ。 自治体によるのかもしれないが、大まかな流れはこうだ。 

  1. 説明会などに参加し、制度について説明を受ける(説明会へ子どもを連れて行く?預け先も無い。でも子どもを連れて出かけるのも一苦労だ・・・) 
  2. 申込みを行い、協力会員のマッチングをしてもらう 
  3. マッチングされた協力会員と面談する
  4.  サポートしてくれる協力会員決定
  5.  何かあった時に依頼をする 
  6. 協力会員の都合が良ければサポートを受けられる

 

サポートしてもらえるのは以下のような内容(新座市のHPより)

・保育施設までの子どもの送り迎え
・保育施設の保育開始時間まで及び保育終了後の子どもの預かり
・学校の放課後及び放課後児童保育終了後の子どもの預かり
・病院に行く間などの子どもの預かり
・急な用事及び兄弟、姉妹の行事等参加する時の子どもの預かり
・リフレッシュのための子どもの預かり
・その他、子育てに必要な子どもの援助。(家事支援は行いません。)

※子どもが病気時の援助活動は行いません
※ 援助活動は、協力会員又は両方会員の自宅で行うことが原則です

 

なかなかに、手続きも多ければ精神的なハードルも高いのだ。もちろんボランティアではないので、時間単位で料金を支払うことになる。ちょっとお願いしたいな・・・と思っても料金がネックになることもある。(新座市では基本的に700円/1時間)自分が「頑張りさえすれば」この料金分のお金は節約できる、そう考える人も少なくないだろう。

一時保育という制度もある。保護者の短時間勤務や就学、傷病・出産・介護などの為に一時的に保育園に入って保育を受けることの出来る制度だ。これも多くの自治体にある。検索してみると、新座市にもあった。
わたしは一時保育を利用したことは無いけれど、周りで利用している人・利用したい人の話を聞いていると、こちらもなかなかハードルが高いと感じてしまう。

まず、利用枠が少ない。利用する為には保育園と直接やり取りすることになるのだが、大体のところが定員が一桁だと言う。当然抽選になる。
またこちらも利用料がネックになる場合も多い。新座市の一時保育の利用料は2000円/1日。半日の場合も1000円かかる。簡単にホイホイと預けようとは思えない金額だ。こういった行政の制度を、本事件の母親は利用していたのだろうか。推測になってしまうが、おそらく利用できていなかったのではないかと思う。


制度を使う為には情報収集が欠かせない。また都度申し込みも必要になってくる。ところが乳幼児育児中になると、その情報収集のための検索するささやかな時間さえ取れないことの方が多い。また問い合わせの電話をすることすら難しい。

制度の案内は母子手帳交付の際、母親学級、出産のための入院中の助産師指導、また退院後の地域の新生児訪問の際に行われている。しかし、日々の忙しさに押し流されて、ついつい申し込みや利用登録を忘れてしまうことが多い。使いたい、必要だ、と思ってすぐ使えるわけではないのだ。

 

出来れば、地域の新生児訪問などの時に、周囲からのサポートが受けにくい家庭の母親はその場で利用案内を受けたり申し込みを済ませられるようにしておくのがいいのではないだろうか。
一時保育の枠など、優先的に取ることが出来るようにし、子どもを預けて母体をしっかり休養できるように日時までセッティングしておくことができれば、今回のような事件はあらかじめ防げたのではないか。

利用料にハードルを感じるような場合は、行政からの助成や利用料免除などの援助があると、利用率も上がり母子のセーフティネットになり得るように思う。

 

どんなに出来るスーパーマン/スーパーウーマンだって一人で全てを背負いこむのは到底無理なことなのだ。時間は有限だし、自分の体は一つしかないのだから。自分の手から余って溢れそうなものは、周囲に掬って助けてもらうか、諦めて捨ててしまうより他ない。

 

この母親はきっととても真面目な人だったんだろう。子どもたちにとっての「いい母親」、夫にとっての「いい妻」になろうと毎日必死で頑張って、頑張って、頑張って、そうして追い詰められてしまったのだろう。
捨ててしまえば良かったのだ、お弁当作りなんて。今のうちは諦めてコンビニで買うなり、お惣菜にするなりなんだって出来たはずだ。育児が落ち着いてから徐々に再開していく、ということで良かったのだ。

 

高山裁判長は判決後、「二度と起こさないために夫との関係が一番大事。しっかりと話し合っていい関係をつくって」と説諭。家事については「何でも完璧にやる必要はない。あまり気を張らずもう少し子育てを楽しんで」と述べた。罪の意識にとらわれ過ぎることを心配し、「次男はあなたを決して恨んでいないと思う。長男を温かく育てて」と語り掛け、目元を拭った。

 

こんな美談のように書かれているけれど・・・これから先も母親はまだまだ幼い長男を抱えて地獄の日々が続くのだ。1歳より2歳、2歳より3歳・・・と年々育児の難易度は上がっていく。長男が言うことを聞かずに駄々をこねた時などに次男との事がフラッシュバックすることもあるだろう。「子育てを楽しむ」余裕なんてこの先、ありえないのだ。周りが言うのは簡単、でも当事者には一番言われたくない言葉だったんじゃないだろうか。

 

これから先、同じような悲しい事件を起こさない為に。二度とこんな辛い思いをする親子が出ないように。もっともっと、周りが手を差し伸べていかなくては。そのための制度の見直しと充実がはかられていく事を願ってやまない。わたしに出来ることはなんだろう。